◆啓林館『1けたでわるわり算の筆算』
1 つまずきポイント
① 1けたのわり算やかけ算九九の定着がしていない。
② 計算の手順が分からなくなる。
③ 補助計算を書かずに計算しようとする。
④ 3けたの筆算になると急にできなくなる。
⑤ 商に0が立つときにつまずく
⑥ はじめの位に商が立つのかどうかが分からない。
⑦ たしかめ算の仕方が分からない。
⑧ 暗算ができない。
2 攻略ポイント
① 実態調査と九九の下敷き
3年生と4年生の学年において必ず調査したいのがかけ算九九の実態調査です。この調査をしておかないと、どの子がどれくらいかけ算九九ができるのかが分かりません。また、4年生であれば、1けたのわり算がどれくらいできるかも調査したいところです。
その上で、かけ算九九やわり算九九がまだ定着していないようなら、単元のスタートからかけ算九九の下敷きを渡して、いつでも見ても良いように学習を進めます。これをしておかなければ、全くわり算の筆算の学習についていけないからです。もちろん、別途かけ算九九を定着させる手立てはいると思いますが、このわり算の期間中に無理にすることではないです。むしろ、かけ算九九表を持たせることで、気づくと定着していく事の方が、私が担任したお子さんでは多かったです。また、もしも自分だけ持っているのは嫌だというプライドの高めの子だったなら、全員に念のため印刷したものを配ります。その時は、「全員に念のためですが、かけ算の九九表を配ります。心配になったら、いつもで使いなさい。先生も使います♪」などと伝えるだけで、学級でいつでも使える安心感につながる。
九九表の下敷きは、TOSSのホームページからでも購入可能です。ふりがな付きなので、私はこれを購入する場合が多いです。
かけ算九九表下敷き http://www.tiotoss.jp/products/detail.php?product_id=57
② ステップを踏んだアルゴリズムと同じことを聞き続ける。
わり算の筆算は計算手順がとても複雑です。教科書に掲載されているアルゴリズム『たてる→かける→ひく→おろす』これだけでも難しいです。さらに、このアルゴリズムには抜けている計算の手順があります。一つは商の検討をつける作業です。ここができずに苦しむ子どもがいます。そしてもう一つが、かけた数字を写す作業です。一見すると頭の中でできそうですが、これは一桁のかけ算だからできるだけです。今後、子どもたちが出会う二桁÷二桁のわり算では、二桁×一桁を覚えて、写すのは苦しい子がでてきます。このような点からまず、アルゴリズムのステップをより細かく示す必要があります。そこで、私は『かくす→たてる→かける→うつす→おろす』の5つのステップで取り組ませます。省略されていたステップを明確にすることで、低位の子により分かりやすくする狙いがあります。
そして、もう1つは、このアルゴリズムをいかに習得させるかという問題です。繰り返し計算の練習するのはもちろんですが、授業の中で、毎回同じように聞くというのが最も有効だと考えています。
「まず、何をしますか?」
(たてます。)
「次に、何をしますか?」
(かけます。)
このような形で、子どもたちに計算の手順を言わせるようにしています。
以下にアルゴリズムを記します。
72÷3の計算 指で2をかくす たてる 7÷3で2をたてる かける 3×2=6 うつす 7の下に6をうつす ひく 7-6=1 おろす 2をおろす たてる 12÷3で4をたてる かける 3×4=12 うつす 12の下に12をうつす ひく 12-12=0 72÷3=24です。 |
③ 補助計算はノートチェックで徹底させる。
補助計算はできる子にとってはものすごく手間に感じます。しかし、これは絶対にさせるべきです。何のために、この補助計算をさせるのか?2つ意味があります。
1つ目は、この単元ではなく、今後学習する『2ケタでわるわり算の筆算』を攻略するためです。2ケタになると、途端にかけ算が難しくなり、計算の間違いが続出します。だからこそ、補助計算が重要になってきます。それに向けて、1ケタのわり算のうちから、補助計算を書く習慣を確実につけていく必要があるのです。
2つ目は、算数の苦手な子たちを救い、算数が得意な子たちにより力をつけるためです。苦手な子たちにとって補助計算は命綱です。頭の中で計算しようとすることを紙に書く事で、より確実に計算できます。しかし、この補助計算を全員に徹底しないと、多くの場合苦手な子はすぐに補助計算を書かないでやろうとします。その方が楽だからです。しかし、実際はその楽なやり方をやろうとして間違えていきます。また、算数の得意な子たちには、丁寧さが身に付きます。補助計算を書くのは手間ですが、丁寧に補助計算を書く習慣が身に付くことで、算数の学習全体に丁寧さが出てきます。そのような丁寧さを鍛えるには最適なのが補助計算です。
では、どうやって補助計算を書く習慣を身に付けるか?これは『ノートチェック』以外にありません。練習問題などで、問題を解かせたら、確実に教師がチェックします。そして、補助計算をやっていなければ、やり直しを伝えます。ここで決してぶれてはいけません。最初は手間かもしれませんが、絶対に教師が譲らず、補助計算をさせるべきです。もし、クラスでこのような補助計算に疑問を抱くような子がいるなら、趣意説明をしても良いかもしれません。
「補助計算は自転車の補助輪と同じなんだ。しっかりこの勉強ができるようになるまでは、補助計算をして確実に解けるようになろう。この勉強が終わって確実に問題が解けるようになったら、それぞれ補助輪なしで解く練習をしていいからね。」
「補助計算を書くと、丁寧さが身に着く。手間のかかることでも、やり通す力につながる。」
「この勉強ではなく、10月にやるもっと難しい『2ケタでわるわり算の筆算』の勉強のために、今補助計算を書く練習をしているんだ。今やっておけば、後で必ず楽になる。」
こんな趣意説明をしながら、納得させると良いと思います。また、ついつい子どもたちは補助計算を書くのを忘れます。だからこそ、予告をしてあげることが大切です。「補助計算やっていなければやり直し」と伝えてから問題を解かせるだけで、補助計算を書いてきた子をほめることができます。予告と承認を意識することで補助計算が定着できます。
④ 3けたの筆算はゆったりとしたノートで解く。
2ケタと3ケタの計算のやり方は同じです。しかし、不思議と子どもたちにとっては急に難しくなったように感じるのです。間違える原因は、非常に単純です。引き算かかけ算の間違いです。特に引き算の間違いが増えていきます。
攻略する鍵は、練習以外にありません。しかし、むやみに練習するのではなく、ノート1ページにゆったり1問解くくらい、余白をたっぷり取って練習することが良いです。ついつい詰めて書こうとして、別の計算と混同して間違える場合もあります。ノートで確実に解く練習をするとともに、テストでも場合によってはノートに計算して良いことにするだけで、間違いが減ります。丁寧さが攻略の鍵と言っても良いのかもしれません。
⑤ 簡単なやり方よりも確実なやり方を選択する。
右のように商に0が立つ時に混乱する子がいます。混乱する子には2つのパターンがあります。1つ目は、割れない時にどうして良いか分からない。2つ目は、0を立てた後どうして良いか分からない。主にこの2つです。
攻略のポイントは、合言葉です。「割れない時は0を立てる。」これを繰り返し、アルゴリズムで聞いていくと良いです。『4÷6できますか?(できません。)割れない時は(0を立てる。)』このような形でリズム良く、聞いていく事で定着していきます。
2つ目の0を立てた後については、原則今までと同じように計算させます。教科書には、簡単なやり方が紹介されています。もちろん、教えた方が良いですが、これを教えて全員にやらせようとすると、苦手な子たちほど混乱します。ですので、この単元の間、私は今までと同じようにやるということで統一しました。これにより学級全体としての理解も深まったと感じています。
⑥
指で隠し×をつける。
商の見当をつける力はなかなか身に付くものではありません。わり算の計算がまだまだ暗算でできる子が少ないからこそ、商の見当をつける方法を教えていくことが必要です。特にはじめの位に商が立つかどうかの見極めの仕方について教えていくことが大切です。
攻略するために、必要なのが『指で隠す』という作業です。昨年度も4年生を担任していましたが、昨年は教えましたが、アルゴリズムには加えていませんでした。結果的に、定着しきらなかった児童が少しいました。今回はアルゴリズムに加えたことで、指で隠すが全員に定着しました。これにより商の見当が付きやすくなりました。
さらに大切なのが、はじめの位に商が立たなかった時に×を書く事です。これを書かないと、商を立てる際に位を間違えて書く子が必ず出てきます。視覚的に商のたて間違いを防ぎます。
⑦ たしかめ算の基本型と学習の時期の工夫
たしかめ算の公式は頭で覚えようと思ってもなかなか覚えられません。それよりも、ノートに書かせる場所で覚えさせると良いです。右のような基本型でたしかめ算を書かせる際、縦の数字を揃えることで、自然とたしかめ算の公式になります。この縦をそろえて書かせることを意識させるだけで、たしかめ算が自然とできるようになります。ちなみにこの基本型はあかねこ計算スキルと同じです。
しかし、たしかめ算を教えていて、困ったことがありました。それは、教科書のわり算の学習の第三時において、たしかめ算が出てきたからです。第三時の時期は、まだまだわり算の筆算のアルゴリズムさえ定着しきっていない時期です。この時期に、たしかめ算まで登場したらパンクしてしまう子が出てくると考えました。そこで、今回はある程度わり算の筆算が定着してきてから、教えてみました。すると、たしかめ算のやり方が昨年以上に子どもたちに定着していったように感じます。たしかめ算を教える時期も子どもの様子を見て決めるべきです。
⑧ 暗算は無理しない。
単元の終わりに出てくるのが暗算の問題です。はっきり言って、苦手な子に暗算まで求める必要はないです。この単元で絶対に定着させたいのは、わり算の筆算ですから、まずは最優先にわり算の筆算を定着させ、それが身に付いて余力があればできるようにさせるべきです。もちろん授業の中では全員に教えはしますが、暗算が難しそうな子には、筆算でやっても良いことを伝えます。これが子どもにとっても、教師にとっても良い選択だと思います。(誤解のないように、長期的にはできるようになるように、指導はした方がいいです。)
3 授業の考察
この単元を通して、子どもたちに算数の一年間を貫くスキルを身に付けさせたいと思っていました。特に、定規を使うスキル、補助計算を書くスキル、間違えたら×を付け消しゴムを使わないスキル、このような丁寧さが必要とするスキルをしっかりと身に付けることで、今後の算数の学習の定着度が大きく変わっていくと思っていました。予想通り、この単元の中で、子どもたちのノートが飛躍的に成長したことを感じました。わり算の筆算はおそらく最もノートの消費が激しい学習の1つです。これはつまり、たくさんのノートを書く練習ができるということです。だからこそ、しっかりとしたノート指導をこの単元で意識していく必要性を感じました。
授業をやってみて、わり算の学習は最初の1~3時間くらいは辛抱が必要だということが分かりました。アルゴリズムが定着していないので、どうしても問題を解くのも遅く、間違いも多いです。しかし、徐々に加速度的に子どもたちはわり算の筆算を身に付けていきます。教師が1~3時間目くらいまでは、完璧を求めない心を持つことも大切です。
また、たしかめ算については、無理に単元の始めにいれないで正解だったと感じます。わり算の筆算の定着が見られてから、徐々に入れていくので十分です。また、テストの中でミスが多かったポイントはやはり空位の0を立てる問題でした。ついつい割れない時に空位の0を立てることを忘れる子どもがいるため、空位の0の問題については重点的に始動した方が良いと感じました。さらに、テストでは以外に引き算のミスをする子どもが目立ちました。引き算の筆算が定着しているかどうかも実態把握はしておく必要があると思います。