1 つまずきポイント
① 文章を読んで、立式をすることができない。
② 分数×分数の考え方を理解することができない。
③ 既習事項の理解が曖昧なため計算を間違える。
④ 約分をし忘れて間違える。
⑤ 小数の逆数で間違える。
⑥ 倍の問題でわり算が出てくることで混乱する。
⑦ 割合の問題で、数直線面積図が書けない。
⑧ 2本の式が必要になる文章問題で立式できなくなる。
2 攻略ポイント
① 数直線面積図を書かせる。
② 図に色を塗り、理解させるが無理はしない。
③ 既習事項の問題を一緒に解かせる。
④ 約分の補助計算を必ず書かせる。
⑤ 小数を分数に直してから、逆数にさせる。
⑥ 数直線面積図で『中÷外』で解けることを確認する。
⑦ 問題に『倍』という言葉を付け加える。
⑧ 2本の数直線面積図を書かせ、立式させる。
① 数直線面積図を書かせる
この単元、最大のポイントは『数直線面積図』である。これが書ければ、全ての文章問題に対応できると言っても過言ではない。『数直線面積図』とは右のようなものである。
通常の数直線との違いは大きく2つある。1つは、数直線を2本ではなく、1本にまとめていること。もう1つは、分からない□のところに、長方形を書いていることだ。
この数直線が書く事ができれば、あとは『長方形の面積=縦×横』にあてはめて解くことができる。上の面積図であれば、
式 4/5×1/3=□
といった長方形の面積で□を求めることができる。書き方の手順は以下である。
1 1が下にくる数直線を書く。 2 1の斜め上に□をかぶせる。 3 長方形の面積を求める。 |
この中で、特に重要なのは、1つまり元になるのは何なのかを理解できるかである。そのために、教科書の文章題を読んだ際、必ず元になる数字に印をつけさせる。これを意識させることで、『元』が何なのかが間違えづらくなる。
② 図に色を塗り、理解させるが無理はしない。
かけ算×かけ算の意味を理解させることは難しい。だが、全く扱わない機械的な方法だけで良いとは思えない。そこで、教科書のリットルマスを塗ることで理解させていきたい。
「4/5㎡を赤鉛筆で塗ります。」
「そのうちの2/3㎡分塗ります。」→右側の図
「これは、1/5×3つまり、1/15が何個分ですか?」
(4×2で8個分です。)
答え 8/15㎡
といったように塗らせる中で、途中式と連携させ理解させる。
③ 既習事項の問題を一緒に解かせる。
分数のかけ算では、いくつか4年生や5年生の分数に関する既習事項が出てくる。
・仮分数を帯分数に直す
・帯分数を仮分数に直す
・約分
・分数のわり算(分数÷整数のみ)
・整数÷整数を分数で表す。
・分数の足し算、引き算(ごくわずか)
これらができるものだと思って進むと、子どもたちがつまずく場合が多い。そのため、4月のうちに既習事項がどれくらい定着しているか把握する必要がある。把握していれば、個別でその児童に教える時間も確保することができる。
しかし、現実問題そのような時間はなかなかとることができない。その場合は、授業の中で全体で確認していく必要がある。既習事項をどのように習ったかによっても変わる部分はあるが、それぞれの既習事項における簡単なやり方や補助計算の方法を教師が知っておき、子どもたちに提示できた方が良い。
例えば、仮分数を帯分数に直す方法や帯分数を仮分数に直す方法なら、次のような基本型を
示す。
『帯分数を仮分数に直す。』
11/4=2 3/4 11÷4=2あまり3 |
『仮分数を帯分数に直す』
3 4/5=19/5 5×3+4=19 15 |
これらの基本型を全体で紹介し、解き方を確認していく必要がある。
④ 約分の補助計算を必ず書かせる。
分数のかけ算における最大の減点ポイントは約分を忘れることである。これを解決する手段に特効薬はない。とにかく、子どもたちに繰り返し、約分を確認することを言い続ける。このことがまずは第一である。
その上で、約分という作業をする習慣を付けることと約分の間違えを減らす基本型を提示する。
習慣にするための手立ての1つが
指で隠す |
この作業を入れるということだ。この作業を常にやることで、約分のし忘れが減るだけでなく、約分する数字に目がいきやすくなる。
次に、約分の間違えを減らす手立てが、
約分する数字を③のように書き出す |
ことである。これは、約分できそうな数を先に書き出してからわり算をそれぞれすることで、子どもたちのワーキングメモリーへの負荷を減らすことにつながる。頭で③という数字を覚えておいて、わり算をするよりも、書き出してある数字を見ながらわり算をする方が、苦手な子にとっての負荷が少ない。
このような2つの手立て、『指で隠すことと約分する数字を書き出すこと』で、約分のミスを減らす。
⑤ 小数を分数に直してから、逆数にさせる。
逆数の問題がいくつか出てくる。基本的にはそれほど難しくはない。しかし、難しくないからといって、丁寧にやらないところでつまずく子が出てくる。特につまずきやすいのが小数の逆数である。
例えば、
『0.3の逆数』
0.3=3/10
3/10→10/3
このように手順を踏んでやれば間違えることはない。これを一度に小数からそのまま逆数にしようとすると間違える。丁寧にステップを踏めば、間違う可能性は一気に減る。
⑥ 数直線面積図で『中÷外』で解けることを確認する。
分数のかけ算の単元にも関わらず、一部わり算も出てくる。例えば、次のような問題である。
㋐のテープの長さ1/3mは、㋑のテープの長さ2mの何倍ですか。 |
これも一読しただけでは、なかなか立式できない子が多い。そこで、数直線面積図を書かせる。
元になる数字だけは間違えないように全体で確認をしてあげると良い。
この数直線面積図が書けたら、ほぼ解けたも同然である。今回は長方形で考えた時に、横の部分が分かっていない。そこで、次のような式に当てはめる。
中÷外=□ |
これに当てはめると、
1/3÷2=□ となり、計算すると
=1/6
となる。
分数÷整数は5年生で習っているが、忘れている場合も多いので、解き方は確認した方が良い。
⑦ 問題に『倍』という言葉を付け加える。
分数のかけ算の問題で間違いやすい問題の1つが、割合の問題である。例えば、次のような問題である。
面積が12㎡の花だんの3/4に花が植えてあります。 花が植えてあるところの面積は、何㎡ですか? |
この問題を読んだ際、かけ算かどうか分からない子がいる。割合の難しさは、その問題がわり算なのかかけ算なのかが、一見すると判断できないからである。そこで、問題文に言葉を付け加える。
「12㎡の花だんの、のに○をつけなさい。」
「『○○の』と書いてあるということは、元になるのは何ですか?」
(12㎡です。)
「では、12㎡の3/4に花が植えてあるんですね。これは3/4倍に植えてあるという意味です。教科書の3/4の後ろに倍と書き足します。」
「書き足して、もう一度問題文を読みます。」
面積が12㎡の花だんの3/4 倍 に花が植えてあります。 花が植えてあるところの面積は、何㎡ですか? |
こうするだけで、これまでの倍の問題と同じように数直線面積図が書けるようになる。
⑧ 2本の数直線面積図を書かせ、立式させる。
この単元、最難関の問題が次の問題である。
道路を1時間あたり64㎡ほそうする機械で、45分間工事をしました。ほそうした面積は何㎡ですか。 |
この問題は、2本の数直線面積図を書けば解くことができる。
まずは、45分間は何時間か分数に直す。これができずに、この問題をあきらめてしまう子がいる。45/60=3/4といきなり出せる子もいるが、最初は全員で数直線を書かせる。
次に、3/4時間でどれくらいほそうできるか、今までと同じように数直線面積図で解く。
地道に2本数直線面積図を書けば解ける問題も、1本目の数直線を省略してやろうとすると間違えてしまう。2本書くことを徹底させたい。
また、最初はこのパターンの問題の解き方を教えて、何度か類題を解かないと定着しないことが予想される。
3 授業の考察
基本的な分数の計算方法については多くの児童が定着したと言える。文章題を解く際、今回一貫して『数直線面積図』を活用した。以前は、普通の数直線を書かせて考えさせたり、それをたすき掛けさせる方法などを用いたりもした。これらの方法でもある程度できるが、『長方形の面積で考える』というシンプルな方法である数直線面積図にしたことで、慣れてくると安定して解くことができた児童もいた。平均点としても、以前教えた6年生と比べても5点ほど高い結果となった。その反面、数直線面積図において、何を基にするのか(1の部分)これが分からないため、正しく数直線面積図が書けない子もいた。これは普通の数直線を書く上でも言えることではあるが、文章題の意味を理解する手だてや繰り返しの練習がいると感じた。
テストの結果を分析すると、それ以外にいくつか課題も見つかった。
1つ目は約分の徹底である。繰り返しの声かけ、約分忘れを減らす手立てを指導したが、それでもテストで約分を数多く忘れた児童が3名いた。まだまだ、指で隠すという作業を怠っている児童やそれらの徹底が足りなかったことが分かる。テストでできていないということは、テスト以前の段階からその作業を怠っていた可能性が高い。個別での声かけや指導の不足が現れていたと言える。分数のわり算前にしっかりと指導し直す必要性を感じた。
2つ目は、数直線面積図を2つ書く問題の正答率の低さである。この単元で一番難しい問題ではあったが、一時間この問題のためだけに時間を取るほど念入りに指導をした。しかし、数直線面積図を2つ使わなければならない理由が今一つ子どもにおちていなかったように思う。特に『○分を1時間あたりに直す』この作業の意味が理解できていないため、数直線面積図を書いても、線分図のどちらが分でどちらが時間なのか、曖昧な児童が多くいた。
3つ目は、単位換算の問題である。例えば、10分は何時間か?このようなタイプの問題は、大人からすると、あっという間に時間が浮かぶ。しかし、子どもにとってはかなりイメージが湧きづらい問題である。数直線面積図を書けるようになった子にとっては、簡単に解ける問題ではある。しかし、定着が曖昧な子や『1分=60秒、1時間=60分』このような基礎的なことのイメージが持てていない子にとっては、すぐに正答するには難しい問題のようだった。
次の単元でも同じように『数直線面積図』を活用して指導していく予定である。それとともに、もう少し取り入れたいのが、問題を簡単な整数に直して考えるという方法だ。
1dLで4/5㎡ぬれるペンキがあります。1/3dLのペンキでは何㎡ぬれますか。 |
このような問題であれば、
1dLで4㎡ぬれるペンキがあります。2dLのペンキでは何㎡ぬれますか。 |
このように簡単な整数に直して考えるという方法も、合わせて伝えていこうと思う。分数になることでイメージしづらい状況を緩和する1つの手立てになると考えている。